フォトワールド十人十色
花火師さんの作った花火という作品を、
そのまま伝えるように心がけています。
 当初、先生は多重露光やフィルターワークといったテクニックを駆使して花火を撮影していました。しかし、ある出来事をきっかけに、先生の作品からそうしたテクニックがまったく見られなくなります。「私の多重露光で撮った写真が、花火大会のポスターに使われ、それを見たお客さんが花火を見に来てくれたのです。ところがそのお客さんから思いがけないクレームがつきました。『ポスターにあるような凄い花火なんて見れないじゃないか』というのです。ショックでしたね。報道という分野で真実を伝え続けてきた私が、花火を撮りながら、花火の真実を伝えていなかったのですから」

 その後、先生はテクニックを使わずに、花火の本来の形を撮影するようになります。「自分の作品を撮ろうという気持ちを抑えて、花火師さんの作った花火という作品を、そのまま伝えるように心がけるようになりました。写真は少し地味になりましたが、写真と同じ花火を実際に見ることができます。花火はその一瞬を体験してこそ、本当の素晴らしさがわかりますから、真実をそのまま伝えるということが、花火の素晴らしさを伝えることに繋がるのだと思っています」。
島原ファンタジア冬の花火大会 ■カメラ:ペンタックス6×7 レンズ:タクマー105mm 絞り:f8 シャッタースピード:B(約2秒) フィルム:フジクロームベルビア 撮影地:長崎県小浜町
宮地浜奉納花火大会 ■カメラ:ペンタックス6×7 レンズ:SMCペンタックス55mm 絞り:f8半 シャッタースピード:B(約2秒) フィルム:フジクロームベルビア 撮影地:福岡県津屋町
一生かけて一つでも多くの花火大会を撮影したい。
 花火をそのまま伝えている先生の作品からは、花火の圧倒的なスケールと美しさが迫ってきます。どうしたらこのような花火の写真が撮れるのか、アマチュアに向けてのアドバイスをうかがうと、「花火のことをよく知ることです。特に花火の種類や構造を勉強するとよいと思います。それを知るとシャッターのタイミングがわかってくるんですよ」と教えてくれました。

「昨年一年間で約7500回もの花火大会がありました。7、8月のシーズンには一日70ヶ所もあるのです。撮影は一日に一ヶ所しかできませんので、とうてい一生かけても撮りきれるものではありません。花火を撮りだして14年経ちましたが、常に新しい花火大会を撮り続けています。今でも素晴らしい花火大会に出会うと涙が出るほど感動してしまう。花火を撮っていて本当によかったと思う瞬間です」。
 年に100ヶ所前後の花火大会を撮影し続けている冴木先生は、一生かけて一つでも多くの花火大会を撮影したいと言います。先生のお話しからは、自分のテーマを見つけた写真家の幸福感が伝わってきました。
白秋祭 ■カメラ:ペンタックス6×7 レンズ:SMCペンタックス55mm 絞り:f8 シャッタースピード:B(約2秒) フィルム:フジクロームベルビア 撮影地:福岡県柳川市
さえき かずま
1957年山形県鶴岡市出身。現在は大阪府に在住。花火写真家・ハナビストとして日本全国の花火大会を撮影。また、伝統花火の記録にも力を入れている。著書に「日本列島花火紀行」(山と渓谷社)「四季の花火を見に行こう」(講談社)「花火・おもいでの夏」(山文社)「日本の花火」(光村推古書院)「幻想花火」(創森出版)がある。また今年の4月には新たに「Fantasia花火・咲いた」 (P・I・Eブックス)が発売される。
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