フォトワールド十人十色
テクニックを排して花火本来の姿をとらえる
花火写真家 冴木一馬氏
暗い夜空にパッと咲いてパッと散る、色鮮やかな花火。その一瞬の輝きを、ひたすら追い続けている写真家がいます。「花火は『はかなさ』『せつなさ』といった、日本人の美意識の象徴ではないかと思います」とおっしゃる冴木一馬先生です。今回は、日本でただ一人しかいない花火写真家の冴木先生をご紹介いたしましょう。
 冴木先生は最初から写真家になろうと思っていたわけではありません。当初はファッションデザイナーを目指して専門学校に通い、就職もアパレル関係の会社だったそうです。その間も趣味として写真を撮り続けていましたが、やがて写真に情熱を傾けるようになります。24歳の時に脱サラをしてフリーの報道カメラマンとして活動するようになりました。そんなある日、先生に花火との出会いが訪れます。
秩父夜祭 ■カメラ:ペンタックス6×7 レンズ:SMCペンタックス55mm 絞り:f8 シャッタースピード:B(約2秒) フィルム:フジクロームベルビア 撮影地:埼玉県秩父市
報道の現場ですさんだ気持ちを
癒してくれたのが花火でした。
 31歳の時のこと、先生のもとに某新聞社から、大阪の天神祭りを取材する話が舞い込みました。三日に渡って祭りの行事を撮影する仕事です。その仕事中に先生は、特等席から見上げた花火に深い感銘を受けます。「それまで、私にとって花火といえば、人混みの中で遠くから眺めるものでした。ところが、その時に見た花火は頭の真上で開いたのです。その大きさと音に圧倒されました。そして何よりも、報道の現場で、すさんでしまった私の気持ちを、その時の花火が癒してくれたのです」。
 天神祭りの花火に魅了された先生は、報道写真の仕事の合間に、花火大会を追って撮影に出かけるようになりました。そうした活動が7年ほど過ぎた頃、先生に転機が訪れます。
「ある情報誌が花火を特集するので写真を貸してほしいと言ってきました。追随するように、他からも花火の写真を貸してほしいという申し出があったのです」これをきっかけに、先生は報道写真をやめて、花火専門の写真家として生きていく一大決心をします。
熊野大花火大会 ■カメラ:ペンタックス6×7 レンズ:タクマー75mm 
絞り:f11半 シャッタースピード:B(約1秒) フィルム:フジクロームベルビア
撮影地:三重県熊野市

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