特集
日本の自然は私達にやすらぎを
与えてくれるだけの豊かさを、
いまだに残しているのです。

■プロの写真家の作品を真似るのではなく、
 アマチュアだからこそできる表現を目指してほしい。
●アマチュアの方にも、もう少し現代的な、今という時代を意識した表現を心がけてほしい、ということですか?

 そうです。ただ誤解してほしくないのは、アマチュアの方にプロの写真家の表現をもっと真似しなさいと言っているのではありません。

写真家の場合は写真を撮ることが仕事ですし、それを現代の皆さんに見ていただくのですから、時代を意識した表現を目指すのは当然のことだと思います。しかし表現が新しければ何でもいいというわけではありません。仕事上の様々な制約もあるのです。アマチュアにはそうした制約はいっさいないのですから、むしろプロの写真家よりずっと自由に、新しい現代の写真表現を工夫し、求めていってほしいですね。何の制約もなく自由に表現を求めていけることこそ、アマチュアの素晴らしさですし、私自身がアマチュアに期待することでもあるのです。

●そうした写真表現の上での時代認識というのは、日本と海外とでは違いがあるのですか?

 ありますよ。日本では今、アマチュアもプロの写真家も、自然を撮ることにとても熱心になっています。こうしたことは海外では見られないことなのです。

私は外国で三脚を立てて自然風景を撮っている人に、ほとんど出会ったことがありません。これは自然の風景を撮ることによって自分の気持ちを代弁できるという認識がとぼしいためではないでしょうか。といいますのは、海外の自然写真は大部分が自然科学写真で、日本人のように心情的なものではないのです。自然に対する認識そのものが違うのでしょうね。
谷川にヒラヒラと舞い降りた、紅葉。紅葉そのものではなく、谷川だけで秋を表現したもの。水の付着した岩の質感が、この情景の見せ場である。
■カメラ:ペンタックス645 レンズ:SMCペンタックス645 80-160mm F4.5 絞り:f22 AE フィルム:RVP PLフィルター・三脚使用 撮影地:山形県米沢市
朝から霧雨。東京を出て福島に向かったが、雨は上がりそうもない。では、この天候を生かして秋の風景を撮りたいと思った。高速を出て、山間部に差しかかったとき、霧の彼方に木々が浮かび上がって幻想的であった。
■カメラ:ペンタックス645 レンズ:SMCペンタックス645 300mm F4 絞り:f16 AE+2/3補正 フィルム:RVP PLフィルター・三脚使用 撮影地:福島県いわき市
●日本と海外とで写真表現の時代認識に差があるということは、写真文化にも差があるということなのでしょうか?

 もちろんです。今、日本人が風景写真に熱心になっているのは、二十一世紀へ向かっての時代認識だと思うのです。

 高度成長経済の時代の日本人は一生懸命に働いて、その結果、環境破壊をしてきました。そのときに第一線で活躍していた方たちが、退職されて自分たちが生きていくということが、どういうことなのかを考えはじめたのでしょうね。そして自分たちが破壊してきた自然にもう一度目を向けるようになった。それが現在、風景写真が注目されている理由だと思うのです。

結局、日本人は自分たちの心が安らぐ場所というのは自然の中なのだということに、やっと気がついたのですね。また、このことは日本の自然がそうした欲求に応えられるだけの豊かさを、いまだに残しているということを意味しているとも思います。
日本の滝の風景と、紅葉の色合いとは相性がいい。これは山形県の名瀑、火焔の滝を撮ったもの。紅葉の色合いはPLフィルターを使った表面反射の除去が効果を上げる。
■カメラ:ペンタックス645 レンズ:SMCペンタックス645 300mm F4 絞り:f16 AE+1/3補正 フィルム:RVP PLフィルター・三脚使用 撮影地:山形県米沢市
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