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■海中写真は私の天職ですね。
●先生は1988年に木村伊兵衛賞を受賞されていますが、海中写真で木村伊兵衛賞を受賞されたのは先生がはじめてですし、その後の日本の海中写真に大きな影響を与えた出来事だったと思います。先生ご自身は、この賞を受賞されたとき、どのようなお気持ちだったのでしょうか?

「海中顔面博覧会」で木村伊兵衛賞をいただいたのですが、私自身はこの写真集を作ったときに、まったく賞なんて考えていませんでした。当時は日本の海中写真のレベルがずいぶん低く、ダイビング雑誌を見ても見慣れた写真が多く、魅力のある写真が少なかったんです。

私は少しでも海中写真のレベルが高まればと、常々思っていました。そのためには素晴らしい海の写真を、もっと多くの方に見てほしかった。海に潜らない人たちにも、海の中の美しさ、楽しさを伝えたかったんです。そうした気持ちを込めて出版したのが「海中顔面博覧会」で、この写真集は私自身も楽しんで作ることができました。皆さんにも楽しんでいただけたようで、病院のお見舞いにも使われたりしたようです(笑)。

「海中顔面博覧会」を出版してしばらく後、木村伊兵衛賞にノミネートされた頃は、ちょうど日本の海中写真のレベルが上がってきた時でもありました。海中写真のコンテストも盛んに行われるようになり、優れた作品が出てきていたのです。そうした海中写真の盛り上がりを、私がこの賞をいただくことで、さらなるステップアップにつなげることができればと思い、賞をいただくことにしました。
止まり木のイソバナの上で一休みするクダゴンベ。実は擬態でこの枝の中に身を隠し、ここから離れることはない。
■カメラ:ニコンF4 レンズ:ニッコール60mm マクロ F2.8 絞り:f11 シャッタースピード:1/60秒 ストロボ使用 フィルム:ベルビア 撮影地:沖縄
澄み切った青い海中にフンワリと浮いて、ハマフエフキとにらめっこした。
■カメラ:ニコノスRS レンズ:UWニッコール13mmF2.8 絞り:f8 シャッタースピード:オート フィルム:ベルビア 撮影地:沖縄
●その後も先生は日本の海中写真の向上に尽力されてきたわけですが、先生が魅了された海との出会い、海中写真との出会いについて教えてください。

 最初はまったくの遊びでした。私は出身が秋田県で、子どもの頃は水の中に潜るといえば八郎潟しか知りませんでした。八郎潟と比べてみると、海は水の青さ、透明感からして違いました。オバケのように見える海草が生えていたり、岸辺の近くに魚の大群が訪れたりと、海中の美しさ、面白さに感動してしまったんです。それで、しょっちゅう神奈川の真鶴岬に電車に乗って遊びに行ってました。

 ある日、のんびりと沖の岩の上で日向ぼっこをしていると、急に目の前に2、3人のダイバーが浮上してきたんです。見ると首からカメラをさげている。「何をしてるんですか?」とたずねると、「写真を撮っている」と言います。海中の美しい世界を写真に撮れるということを知って私は興奮しました。その時私は「自分はこれがしたかったんだ」と思いましたよ。自分の天職だと思いましたね。
海中に咲く一輪の花、ムラサキハナギンチャク。波に揺れる触手は引き込まれるほどセクシーだ。
■カメラ:ニコンF3 レンズ:シグマ18mmF3.5 絞り:f11 シャッタースピード:1/60秒 フィルム:ベルビア ストロボ使用 撮影地:静岡県西伊豆
(下)3メートルほどもある巨大マンタが、悠々と目前に迫ってくる。プランクトンを補食している様子だ。
■カメラ:ニコノスX レンズ:UWニッコール15mm F2.8 絞り:f8 シャッタースピード:オート フィルム:プロビア 撮影地:オーストラリア
(上)トゲトサカの赤に同化し、赤い魚に化身してしまったタテジマヘビギンポ。
■カメラ:ニコンF4 レンズ:ニッコール60mm マクロ F2.8 絞り:f11 シャッタースピード:1/60秒 フィルム:ベルビア ストロボ使用 撮影地:沖縄
小鳥のたわむれのように気ままに泳ぐハナダイたち。
■カメラ:ニコンF3 レンズ:ニッコール20mm F2.8 絞り:f8 シャッタースピード:1/60秒 フィルム:ベルビア ストロボ使用 撮影地:エジプト・紅海
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