路上観察紀行

 その後、赤瀬川氏たちは「超芸術トマソン」の観察を深めつつ、路上を歩きまわります。一方、松田氏は、日本の近代建築をテーマに独自に路上観察をしていた藤森照信氏と出会います。そこにマンホールなどを中心に路上を観察していた林丈二氏が加わります(藤森照信氏はフォトライフ四季のVol.32に、林丈二氏はVol.31にご登場をいただいておりますので、詳しくはカメラのキタムラのホームページのバックナンバーをご覧ください) 。

 こうして路上観察をしている面々が集まったんだから、みんなで何かしようじゃないかということになりました。そこで共同して『路上観察学入門』という本を出版することにしたんですが、発行者をどうしようかという話になり、だったら冗談も含めて、もっともらしく『路上観察学会』にしようということになりました。学会なんだから発会式をやろう、学士会館でやろう、いや『路上観察学会』なんだから路上でやろうと、話はどんどん発展していったんです(笑)。それで学士会館の前の路上で、モーニングで正装したメンバーが、ズラッと並んで発会式をやりました(笑)。

 このように路上観察学会の活動というのは、先に目的があって何かをするというわけではなく、みんなが集まって冗談を言い合っているうちに、いつのまにか学会の活動につながってゆくんです。みんなで集まって路上を観察をして歩く。面白いものを見つけては写真を撮り、冗談を言い合う。奇妙なものを見つけては、また写真を撮って笑い合う。みんな難しい顔をして路上を観察しているわけではありませんし、作品を作ろうという気負いもありません。リラックスできて楽しいのです。それがまた、次の一人一人の仕事や日常生活に、新たな活力を与えていると思います。いい刺激になっているのですね。
左官職人の伝統が脈々とある土地柄のせいか? 空き缶のポイ捨て禁止を呼びかけるために、空き缶で恐竜を作ってしまった。(大石田)
一見、ただの剥げかけた塀だが、よく見ると剥げ方に味があり、美的なコンストラクションになっている。(村山)
 
 
 路上観察学会は発足より今年で14年目を迎えますが、松田氏は学会がこんなに長く続くとは思っていなかったそうです。ただ目的もなく集まって冗談を言い合っているだけでは、14年も続かないはず。やはりそこには、路上観察ならではの楽しさや魅力が深くかかわっていました。

 路上観察の魅力は発見をすることの面白さではないでしょうか。学会のみんなと同じところを路上観察をしながら歩いていても、一人一人の目のつけ所が違います。みんな別々なものを観察しているんです。それを集めて、お互いに撮った写真を見比べてみると、同じ町を歩いたはずなのに、自分では気がつかない町の姿に気づかされる。それがすごく面白いんです。

 また、路上観察をした後に発表会をやるのですが、一人一人が撮った写真をスライドで見ながら、他のメンバーも感想や意見を言うわけです。すると、撮ったときには何が面白いのかわからなかった、不思議に思えただけの景観が、他のメンバーに教えられて、その理由がわかったり、また別な見方を教えられたり、そうした発見もあるのです。それもまた楽しい。
大石田にいた左官職人佐藤金太郎さんは、異様なコンクリート彫刻を作る人だった。これは小便小僧が邪鬼におしっこをひっかけている国籍不明の作品。(大石田)
 
 
擬木の冷蔵庫。冷蔵庫をコンクリートで固めて木目の模様をほどこし、木に見せかけている。なにも冷蔵庫を擬木にしなくてもいいのでは、と思うのだが…。(大石田)
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