高画質化の道のり

 C-800Lの画質はデジタルでもここまでできるという驚きをもって市場に迎え入れられた。「それまで市場に出されていたデジタルカメラと比べると格段の高画質を実現されたわけですが、他社に先駆けて開発されたのですから、そこには並々ならぬご苦労があったのではないかと思うのですが」という山本の問いかけに、「実は私どもがC-840Lを計画したときに、市場にはまだデジタルカメラ専用の35万画素以上のCCDというものがなかったんです」と中島氏はC-800L開発当時の苦労を話される。

 CCDというのはフィルムに変わって画像を電気的に記録する、デジタルカメラの心臓部である。CCDには銀塩の感光材料の代わりにセンサーのフォトダイオードという、光の強さを電気に変換する素子が敷き詰められている。その敷き詰められている数が、130万とか80万といったデジタルカメラのCCDの画素数である。通常我々が親しんでいるサービスサイズでプリントするためには、80万画素の画素数をもつCCDが最低限必要になる。それがオリンパスの求めた最低のレベルだったのだが、当時はまだ、それを満たしたCCDは市場になかった。

 CCDを新たに造るとなると困難な問題に突き当たる。CCDの開発にはかなりの投資を必要とするため、それが回収できるだけの生産数量がなければCCDメーカーは生産に応じない。「その当時はCCDメーカーさんでは100万画素もの高画素のデジタルカメラが売れるとは考えられなかったようで、我々がいくら説明しても聞き入れてもらえませんでした。

上はC-840LのHQ(高画質1,280×960)で撮影、下はC-1400LのHQ(高画質1,280×1,024)で撮影し、プリントした画像。デジタルカメラで撮ったとは思えないほど鮮明で、デジタル画像特有の画質の粗さはまったく感じられない。

 結局応じていただけたのは1社だけだったんです。我々は商品に強い思い入れをこめて造りますので、たとえ1社さんだけでも、ご理解いただけたことは幸せなことだったと思います」と中島氏。その後C-800Lが市場に出るとインパクトがあったため、事態は急激に好転していったのだという。

 最低限80万画素とはいうものの、きちんとした画質を求めるのであれば130万画素は必要になる。そうしたCCDの開発に合わせて、満を持して発表したのが131万画素を実現したC-840Lであり、その上をいく141万画素という超高画質を実現したC-1400Lである。

 デジタルカメラの開発と同時に、使用するレンズも設計・開発された。CCDにはフィルムとは違うクセがあり、レンズも銀塩カメラの光学のノウハウがそのまま流用できるわけではないのだという。「銀塩のフィルムというのはどの方向から光が入っても、そんなに感度に差は出ないんですが、CCDの場合は垂直に近い光に対してしか感度を持たないんです。このため、CCDに垂直に近い光を与える必要があり、フィルムカメラの設計技術がそのまま生きるわけではないんです」オリンパスはデジタルカメラの世界に高画質を実現し、デジタルもまた従来の写真文化に充分参画できる可能性があることを、市場に示してみせた。しかしその裏には、一言では語れない苦労の連続があったようだ。