THEフォトワールド

「眼鏡橋」を撮る

 眼鏡橋の撮影において、何か技術的なコツはおありなのかと伺ってみると、「他の撮影に比べて特に難しいことはありませんが、あまり撮影位置を後ろに引けない場合も多いので、広角レンズは必需品ですね。特に多用したのは24ミリと28ミリです。眼鏡橋に思いっきり近づくと、石のぬくもりが写真になっても伝わってくるんですよ」。また、周りの風景との明暗差が激しい場合も多いので、露出を変えて何枚か撮る、つまり段階露出をしっかりと押えておくことが大切だと織田氏は付け加える。

「通潤橋」(つうじゅんきょう)9月初めの八朔祭(はっさくさい)の日には、2時間おきに放水が行なわれ、夜8時からは花火が打ち上げられる。
■カメラ:キヤノンT90 レンズ:20mm 絞り:f4 シャッタースピード:20秒 フィルム:ベルビア 三脚使用 撮影地:熊本県矢部町

「通潤橋」(つうじゅんきょう)放水は、もともとは導水管に詰まった泥やゴミを流すためであったが、今は観光客向けに行なわれている。
■カメラ:ペンタックスZ-5P レンズ:28〜70mm 絞り:f5.6 AE フィルム:プロビアスカイライトフィルター使用 撮影地:熊本県矢部町

「私が日本一の石橋だと思うのは、重要文化財にも指定されている熊本県矢部町の『通潤橋』ですね。世界最大の石造アーチ水路橋であり、深い谷に囲まれた白糸台地に灌漑用水を供給しているんです。阿蘇外輪山をはるかに望む周囲の景観も含めて、そのそびえ立つ姿は眼鏡橋の最高傑作ですよ」と語る織田氏。およそ150年前、水に恵まれずに貧しい生活を送っていたこの地の農民のために、石工の兄弟が苦難の末に作り上げたという逸話が残るこの橋では、毎年9月初めの祭の日に、放水や花火の打ち上げが行なわれ、観光スポットとしても知られている。

「間戸橋」(まどばし)山間の小さな川にひっそりとかかっているこの眼鏡橋のことが、なぜかいつまでも忘れられない。
■カメラ:ペンタックス67 レンズ:55mm 絞り:f8 シャッタースピード:1/8 フィルム:ベルビア 三脚使用 撮影地:大分県三重町

 またこれとは対象的に、大分県三重町の『間戸橋』や、宮崎県高千穂町の『鶴の平眼鏡橋』など、山間にひっそりと佇む無名の橋も、織田氏は好んで撮影するという。「しかし現在では、環境破壊と川の汚染が確実に進んでいます。また、護岸工事や道路の拡張などにより、撤去される眼鏡橋も目立っています」と嘆く織田氏。

 「便利さを優先させるために、我々は大きなものを失っているのではないでしょうか。眼鏡橋のある風景はかけがえのない文化遺産であり、その存在を作品によって多くの人々に知っていただきたいのです」と強調する。


 織田氏は眼鏡橋以外に古い西洋館や灯台なども撮影しておられるが、我々も時にはこうした貴重な建築物を撮ることで、それらの重要性について考え、少しでも環境や文化財の保存につなげてゆきたいものである。

おだ やすひと

1942年福岡県生まれ。東北大学経済学部卒業後、東陶機器(株)に勤務。消えゆく蒸気機関車を撮影するため、1970年代からカメラを手にする。1990年代より西洋館・眼鏡橋・灯台など近代建築の撮影も手がける。写真集は『天主堂巡礼』『眼鏡橋巡礼』(光村印刷)を発行。日本石仏協会会員、日本ナショナルトラスト会員。