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自然の法則を考え、詳しいデータを集めれば、
空撮でも確実性の高い予測ができる。

■データの検討には1週間くらいかかります。
自然を予測するためには時間がかかるのです。
●普通、撮影というと地上での撮影が主ですが、それでもなかなかイメージ通りの撮影ができずにチャンスを逃すことは少なくありません。空撮の場合は飛行機をチャーターしますから、一回の撮影に莫大な費用がかかります。飛んでみて自分の予想していたイメージと違っていたり、天候が悪くていい作品が撮れなかったりすると大変なのではないですか?

 地図や気象データを十分に検討したうえで飛んでいますから、そうした失敗はありません。
 国土地理院の発行している地図には等高線と植生が書かれていますから、それらを検討していると、だんだん地図が立体的に見えてくるんです。太陽光線の角度は気象協会のデータを使います。そのデータですと、撮りたいポイントの太陽光線の角度の詳細がわかります。何月何日には東のどの角度から太陽が出始めて、南中には何度の角度で太陽光線がくるのか、それが全部わかる。

 天候の予測に関しては気象庁よりも私の方が確率がいいかもしれません(笑)。気象庁の予測は最大公約数ですが私はピンポイントで、はっきりとした目的を持って調べていますから。日本は北半球ですので、西から東へ天気は変わってゆきます。ですから今から何時間後かに撮影したい場所の天候を調べる場合、その西側の天候を調べればいいわけです。ただ、私たちが普段テレビで見ている気象情報は地上気象で、高度の高い場所の気象、上層気象ではありませんからデータにはなりません。私が利用しているのは各空港にある気象台の出張所のデータです。ここにはポイントごとの詳細な気象データがあるんです。

 空撮といっても結局は自然を撮っていますから、自然の法則に照らしてゆけば確実性の高い予想を立てることができます。もっとも、これらのデータを検討するのに1週間ほどかかってしまいます。自然を予想するというのは、それほど時間のかかるものなのです。
日本の名所の一つ、天の橋立。砂地と青松がノコギリ刃状に繋がり、何とも不思議な景観である。砂地を強調するために積雪を待ち、予定通りの仕上がりになった。
■カメラ:エアロアクタス45 レンズ:EBCフジノン250mmF5.6 絞り:f8 シャッタースピード:1/250 フィルム:RVP(1絞増感現像) 撮影地:京都府天の橋立
火山国、日本列島の中で活動している火山の一つ阿蘇山。爆発している火口の噴煙は数千メートルまで到達し、自然の力の偉大さを見せつけられた。
■カメラ:エアロアクタス45 レンズ:EBCフジノン150mmF4.5 絞り:f5.6 シャッタースピード:1/250 フィルム:RVP(1絞増感現像) 撮影地:熊本県阿蘇山
■飛行機の揺れと酸素不足の中で、確実に写真を撮る。
私の改造はそれが目的なんです。
●高度が高くなると気温はどんどん下がっていくので、冬の空撮ではカメラの操作が難しくなると思います。先生は空撮のためにカメラを改造されているとうかがっていますが、その工夫はやはり防寒に重点が置かれているのでしょうか?

 いいえ、防寒のためよりも風圧や揺れ、酸素不足による操作ミスの対策に重点を置いています。
 空撮の場合、仕事はポスターなどの大判使用の依頼が多いので、私は全部大判のフィルムで撮っています。水面の波紋なども空から見ると光の点になってしまい、35mmではフィルムの粒状性の問題で出づらいですから。大判ならこれをきれいに写し取ることができます。最初は4×5のジャバラのあるカメラを使っていたんですが、飛行機の中では窓を取り外して撮影するので風圧がすごいんです。このため、ジャバラが風圧でゆれてしまって困りました。それでジャバラのものはやめたんです。
 また、上空4000m以上になってくると酸素も地上の半分ほどになってしまう。そうすると酸素不足で思考力も落ちてきますから、カメラには地上で使用する以上の操作性の良さと確実性が要求されてきます。

 そこで私はカメラのノブを大きくし、数字も大きく見やすいものに改造しています。同時に操作部分にはロックがかかるようにしてあります。飛行機は揺れが激しいですから、ストッパーがないと撮影している間にわずかずつ、ずれていってしまうんです。距離のリングなども私のものは300m、400m、500mと全部ピンが入っていてロックできるようになっています。

 またカメラの重心のバランスにも気を使っています。大型カメラは重量が4〜5kgほどありますし、機内は狭いので、三脚は使用できません。ですからカメラの全重量を手で支えているわけで、このような撮影状況では、たとえばレンズ側の部分が重ければ手に相当な力を入れて持っていなければなりません。カメラを操作するときは片手で持たなければなりませんから、よけいに力がいります。手に力が入るとカメラは操作性が悪くなる。そこで私はカメラを持つ握りの後ろにひっかかりをつけて、手から落ちないようにしています。
まだ雪深い3月、北国で春の目覚めを促す作業である、融雪剤を畑に撒くスノーモービルの走った後に、無意識に作られた自然の造形を感じた。
■カメラ:エアロアクタス45 レンズ:EBCフジノン250mmF5.6 絞り:f8 シャッタースピード:1/250 フィルム:RVP(1絞増感現像) 撮影地:北海道女満別町
阿蘇外輪山の東方には放牧場や畑の雄大なパノラマが見うけられる。四季を通じて作物の数々の色合いが心をなごませる。
■カメラ:エアロアクタス45 レンズ:EBCフジノン150mmF4.5 絞り:f8 シャッタースピード:1/250 フィルム:RVP(1絞増感現像) 撮影地:熊本県南小国町
●先生は今まで日本を上空から撮影し続けてきたわけですが、印象に残るエピソードなどがありましたら教えてください。

 それぞれの場所にはそれぞれの良さがありますから、撮影した場所という点では特に印象に残っているところはないのですが、危険に合ったことはよく覚えていますよ。たとえばセスナが海面に尻をつけてしまったり、飛行機の中で火を噴いたり、ガス欠になったりね(笑)。緊急着陸の一歩手前までいったことは何度もありました。そういうときには今までやってきたことが色々と思い出されるんです。ああすればよかったとか、こうしておけばよかったとか、「走馬燈のように」という奴です(笑)。
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