新メーカー探訪
キヤノン(株)カメラ開発推進室専任主任  樋口好勝氏 動く被写体も確実にとらえ、思い通りの描写を実現。

「やはりプロの皆さんが仕事に使われるのですから、最も大切なことは信頼性だと思います。撮影者の思い通りに作動して、意図した通りの写真が撮れるという安心感を得られることが、EOS-1 Nに課せられた使命だと我々は考えました」とキヤノン(株)カメラ開発推進室専任主任の樋口好勝氏は語る。
 この考えの具体的な現れのひとつが、基本的にEOS-1 の操作性を継承したこと。EOS-1 のプロユーザーの中には、このカメラをブラインドタッチで扱えるほど使いこなしている方も多いので、その後継機の操作性が全く違ったものであってはならないのだ。また、堅牢性・耐久性といったことでもEOS-1 Nはプロの信頼に応えている。10万回以上の作動耐久能力を備えるとともに、湾岸戦争の報道で活躍したEOS-1 の防滴・防塵性を継承し、堅牢性もさらに向上させているという。

 EOS-1 Nの最大の機能特長は、ファインダー内に5点の測距点を設けたこと。通常、スポーツなど動きのある被写体の場合、画面中央で合焦させたまま被写体に合わせてカメラを振る撮り方になってしまい、構図を工夫している余地はあまりなかった。その点、5点測距ならフレーミングしながら画面内に5つある測距点のうち任意のものを即座に選べ、構図優先の写真が撮れるのだ。また、画面の中を横切る被写体を5つの測距点で追い続けることもできるので、連写で時間の経過を表現するような撮影も可能である。

キヤノン(株)レンズ開発推進部長 池森啓二氏  EOS-1 Nがプロカメラマンから認められている理由は、カメラの性能だけでなく、直接描写力に関わるレンズによるところも大きい。「例えば300mm手振れ補正機構搭載のEFレンズは、構想から製品化まで10年かかっているんです。お陰さまでユーザーの方からの評判はいいですね。手持ちで飛行機を流し撮りできるとか、”今まで撮れなかったものが撮れる“ことが大きいようです」と語るのは、キヤノン(株)レンズ開発推進部長の池森敬二氏。また、被写体が不規則に動くのでピント合わせが難しいといわれるファッションショーの撮影などでも、5点測距のEOS-1 Nと超望遠のEFレンズが活躍しているという。我々にはスポーツ撮影などで使われるイメージが強いこのカメラの、ちょっと意外な一面を教えていただいた。

 EOS-1 Nにはほかに3種類のモデルがラインナップされているが、その中でも特筆すべきは1995年に発売されたEOS-1 NRSだろう。このカメラは従来の一眼レフで使われている可動式のミラーでなく、半透明で固定式の「ニューペリクルミラー」が使用されているのが最大の特長だ。「通常の一眼レフは、厳密に言うとシャッターを押した瞬間が写っているのでなく、ミラーがアップする時間の分、タイムラグがあるのです。しかしこのRSでは、それがないのでタイムラグはわずか0.006秒、つまりほぼリアルタイムで撮影できる上、その瞬間を肉眼でチェックすることができます」と新宮氏はその威力を説明する。

 開発当時、「10年後も通用するAFシステム」を目指したEOSシリーズは現在、カメラ・レンズ群ほか様々なアクセサリー類まで網羅した、高品位AF一眼レフシステムの構築を実現した。その登場からちょうど10年、さらなる映像表現の発展に向けて歩み続けている。