秋は紅葉もきれいですが、それ以上に美しいのが、澄み切った透明感のある「光」。
――様々な秋を撮影されてきた三好先生が、日本の秋についてお感じになっていることをお聞かせください。


 日本の秋といえば皆さんすぐに思い浮かぶのが紅葉だと思います。しかし、それ以上にきれいなのが澄みきった「光」です。夏に比べると斜めから射す光に変わってきていて、これが皆さんよくご存知の斜光線です。その光がとてもきれいですね。四季それぞれに光はありますが、秋の光は透明感のある光。その光の中で風景をはじめ、様々な被写体が引き立つ季節です。紅葉はもちろんですが、光の美しさを頭の中に描いて撮影に臨むといいと思います。

――古くからある神社仏閣などの建造物と紅葉の組合せは日本の秋を象徴する被写体ですが、撮影におけるポイントは?

 紅葉時期のお寺はどこに行ってもきれいですが、最近は京都に行くことが多いですね。建物全体を包み込むような紅葉も雄大で壮観ですが、山門越しやお部屋から見る紅葉もいいものです。紅葉を窓や柱などで区切ることで、まるで屏風絵のようにも表現することができます。。

――紅葉をはじめ秋の撮影における注意点はありますか?

 紅葉の場合は広い範囲すべてがきれいな状態になっている訳ではありませんので、望遠レンズを使っていいところだけを切り取ることが多いです。その時に大事になってくるのが「ボケ味」。こうしたことを考えながら作画することで、作品の完成度がより高まります。
 また、きれいな光を表現するためにはバックは暗く落とした方がいいのか?など、光の向きを考えてカメラのポジションを決めていきます。そうすることで徐々に気持ちがのってきます


幾重にもかさなる紅葉と緑。豪快な屏風絵を見ているような気持ちになった。沢の流れがスローシャッターで見た目より優雅な感じを出せたと思う。
■カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5 レンズ:ローデンシュトック300mm シャッタースピード:16秒 絞り:f32 フィルム:ベルビア 撮影地:日光 竜頭の滝の上

ただ単に写真として記録するだけではなく、いかに仏像の荘厳な雰囲気を出せるか?そして思わず手を合わせたくなるように表現することを意識して撮りました。
――最近では「日本の歴史」「仏像」などがブームになっています。先生ご自身も「極楽園」の名で仏像の写真集出版や写真展開催をされました。仏像を撮影される時の心構えについてお聞かせください。

柱の間に広がる庭の景色がパノラマのように繋がっている。座る位置によって奥行きが違って見えるから不思議だ。気配を写そうと思い風で枝が揺れた瞬間を狙った。
■カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5 レンズ:ローデンシュトック210mm シャッタースピード:4秒 絞り:f32 フィルム:プロビア 撮影地:京都 蓮華寺

 


 私自身に強い信仰心があり、仏像と対峙すると信仰心が自分の心の中に自然と芽生えてくるといいますか、元々あったものが呼び起こされてくる感じです。
 仏像は本来美術品ではありませんが、美術的な観点から見ても非常に美しいものです。そして長い歴史があり、大切にされてきたものです。それを写真で撮る場合は、ただ単に記録することが目的ではなく、いかに荘厳な雰囲気が出せるか?写真を観た人にそれを伝えられるか?そして思わず手を合わせたくなるような信仰の対象になるように、気持ちを込めて撮りました。

――仏像は撮影が許可されないことも多いですが、神社仏閣など伝統あるものを撮る時のアドバイスはございますか?

 今、『帝(みかど)の見た楽園(仮称)』というテーマで、京都御所や桂離宮などを一年かけて撮影しています。
 いつも撮影するときは、先人たちが作った和歌に詠まれたように自分の気持ちを表現し、また、その歌を詠んだ時に見たであろう景色を思い描きながら撮っています。写真を撮る時の気持ちの高揚感・緊張感は大事です。だから歌を詠むことと写真を撮ることはかなり近いことであり、俳句を詠むように撮影するのは面白いことです。

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