【夜旅】レインボーブリッジを下から見る東京夜景。
■カメラ:キヤノンニューF-1 レンズ:FD24mm 絞り:f4 シャッタースピード:1秒 フィルム:プロビア100F 撮影地:東京都芝浦

【路地】路地を歩いていると、ショーウィンドーが気にかかる。スリットガラスの美しい飾り窓。
■カメラ:ライカM6 レンズ:ズミルックス35mm 絞り:f5.6 シャッタースピード:1/60 フィルム:プロビア100F 撮影地:滋賀県関ヶ原

【路地】那覇の一大歓楽街だった、桜坂のスナック路地。2年前この路地に魅せられ、右側に見えるスナック・マリリンで写真展を開いた。
■カメラ:ライカM6 レンズ:ズミルックス35mm 絞り:f4 シャッタースピード:1/8 フィルム:プロビア100F 撮影地:沖縄県那覇

長い年月をかけて人々がつくりあげてきた日本の『路地』には、
再開発で生まれてきた新しい町にはない魅力がある。


 日本各地の街を見てきた中里さんの心を魅了したもののひとつに『路地』があります。ここ10年ぐらい、路地に出会うとカメラを向けてきましたが、そんな路地の中でも特に印象に残った地域があると中里さんはおっしゃいます。
 「日本の路地の宝庫は、東の横綱が東京の向島。西の横綱が沖縄の那覇だと思います。5年ほど前になりますが、向島ネットワークというアートイベントがあり、それに出展するために向島エリアを全部くまなく歩きました。細い路地がたくさん複雑に入り組んでいて、しょっちゅう迷いました。しかし迷いながらもイライラすることがなかったのです。それは景色のバリエーションが豊富だからではないかと思いました。何だかわからないオブジェが軒先にあったり。鉢植えなども多く、意外に緑も豊富にありました。
 那覇では、wanakioというアートイベントに参加した時に、「農連市場」という古い市場に出合ったそうです。そこは観光地化されていない地元の人のための市場でした。
 「その近くには桜坂という、かつて那覇で一番と言われた繁華街があり、そこにあるスナックを会場にした写真展を開催しました。その時も市場やスナックの周辺を撮り下ろした写真を出展しようと思い、街を歩き回りました。そうしたら思っていた以上に路地が続いたのです。沖縄は何度も訪れていましたが、那覇の街をじっくりと歩き回ってはいなかったので、その奥行感や路地の複雑さに心惹かれました。那覇の路地の面白さは、東南アジアに近いこともあり、アジアの香りをものすごくとどめていて、生活感があふれているところです。あまり襟を正さなくてもいいような感じです。だから、時間の流れ方が東京に比べるとゆったりとして、歩くテンポもゆっくりになります」。

いいかげんなもの、猥雑なものとか、
ちょっと意味不明なものが混ざりこんでいる街の方が味がある。


 中里さんの作品を見ると、古い街並みや建物など、人間の生活感が強く出ている写真が数多くあります。
 「再開発されて新しく生まれ変わった街は、あまにも整然ときれいになり過ぎ、スキがまったくありません。人の精神構造は意外といいかげんで、きれいになり過ぎると精神衛生上かえってよくないのではないでしょうか。
 現在、中里さんが取り組んでいる撮影テーマは”闇“だそうです。最新の写真集『夜旅』は夜景だけを撮った作品で構成されています。
 「いままでは、日常の景色に対して見方を変え、そしてそこから何かを発見することを行っていました。日常である”日中“に対して夕暮れから夜にかけて見えてくる
”闇“の景色は、全然違う印象になります。そこには日常から少しずれた、時間の隙間・裂け目のようなものがあると感じられるんです」。
 中里さんの日常に眠る光景探しの旅は、まだまだ続いていきます。

PROFILE 
なかざと かつひと
1956年三重県生まれ。1984年フリーカメラマンとなる。2000年より東京・京島の長屋、トルコ共和国カッパドキア洞穴、那覇農連市場などで会場作りを伴う写真インスタレーションを開催。2003年には闇をテーマにした写真インスタレーションを各地で開催。著者に写真集「湾岸原野」(六興出版)、「小屋の肖像」(メディアファクトリー)、「キリコの街」(ワイズ出版)、「逢魔が時」(ピエ・ブックス)、「路地」(清流出版)などがある。

ホームページ
http://www.armpro.co.jp/nakazato/


中里和人写真集


「夜旅」 (共著・文/中野 純)
A5判160ページ 定価2,310円(税込み)

 

お問い合わせ先:
株式会社河出書房新社 TEL.03-3404-8611

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