カメラのキタムラ
Vol.44 2003 SPRING
特集 写真家 沼田早苗氏  
花を抱く ■カメラ:コンタックスRTSU レンズ:マクロプラナー100mm F2.8 絞り:f2.8 シャッタースピード:AE(-1/2EV) フィルム:フジクローム(RVP) 撮影地:東京都町田市

大都市昇月 ■カメラ:コンタックスRTSU レンズ:テレテッサ―300mm F4 絞り:f5.6 シャッタースピード:AE(-1/2EV) フィルム:フジクローム(RVP) 撮影地:東京都世田谷区

金峰山夕照 ■カメラ:キヤノンT90 レンズ:ニューFD800mm F5.6 絞り:f8 シャッタースピード:AE(-0.3EV) フィルム:フジクローム(RVP) 撮影地:山梨県韮崎市

月映えの海原 ■カメラ:マミヤM645 レンズ:セコールC55mm F2.8 絞り:f5.6 シャッタースピード:約2分30秒 フィルム:フジクローム(RTPU) 撮影地:神奈川県小田原市
独学と試行錯誤を重ね、そのデータの蓄積が 貴重な財産となりました。
 「とにかく前例があまりありませんので、まずは月の動きそのものを知ることからはじめました」。最初の頃は新聞に載っている月暦を参考にし、その後に『天文年鑑』を知り、月のさまざまな動きを学ばれたとか。それでも月の動きというのはとても変則的で、事前に地図で方角の確認をして撮影に臨んでも、実際の現場にいると、月がどの位置に現れるのかがわからなくなったり、いきなり雲が出てきて月が隠れてしまったりと苦労の連続を体験されています。
 「朝・夕の月は一般の風景写真とそれほど変わりなく、撮り方は一緒なのですが、日が沈んだ後からは夜の風景となり、独特の世界なんです」。露光時間ひとつをとってみても失敗を繰り返しながら、小まめに撮影データを記録し、やがて、そのデータの蓄積が貴重な財産となっていきました。
 ご自身でも納得のいく作品が撮れるようになると、コンテストにも応募するようになり、雑誌社主催のコンテストでは、年間最優秀賞を受賞しました。また、出版社からは写真集の依頼もありました。
 「できれば、もっともっと写真を撮りたいのですが、普段は会社勤めをしていますので、休日にしか撮影に行くことができないんです。また、私の休日に天候がいいとは限りませんので、ひと月に1回位しか撮影することができないんです」。


日本の風景と月はとにかく合う。
今後は人の生活が感じられる月景色を撮影していきたい。

 普段から雑誌や新聞に載っている風景写真を見ていると、思わずその中に月を浮かべたくなると語る森さん。いつかはその場所で月のある写真を撮ってみようと、記事などを切り抜いてストックしたのが今では40ヶ所以上にもなっているとのことです。
 「力強く情熱的な印象の太陽よりも、どこか淋しげで繊細な感じがする月の方が、われわれ日本人独自の『侘び』『寂び』の情感が表現しやすいと思います。だから、余計に日本の風景には月が合うんだと思います。自分でも撮影してみましたが、『月とススキ』『桜と月』なんていうのは、写真にしてみても本当にすばらしいんですよ」。
 とにかく、月は写真を撮らなくても、眺めているだけで幸せな気分になるという森さんの今後の月景色写真のテーマをお聞きしたところ、「これからは、人間の生活の息づかいが感じられるような作品づくりを目指していきたい。そうすることで、作品の幅も広がり、新しい月景色写真の作品が生まれると思います」。普通の風景写真と異なるのは、天候が悪いとまったく見えなくなってしまうことです。「今でも天候が悪いと数ヶ月間撮影できないことがあります。それがあるので、久しぶりにきれいな月に会えて、撮影できた時の喜びは格別です」。
 お話を聞いていると、月が好きで好きでたまらない、森さんのやさしさが伝わってきます。


PROFILE
もり みつのぶ
1950年、熊本県御所浦町生まれ。1981年、山の月景色を撮りはじめる。1997年、「月のある風景」で第5回前田真三賞を受賞。「山の写真展」など20回のグループ店に出展。写真集に「月の時間」「月の記憶」(光村推古書院)がある。グループ・ド・モンタニュ会員。

▲UP

当サイトに掲載されている写真・テキスト等を無断で複製・転載することを禁じます。