フォトワールド十人十色
生き物の姿を借りて 自分の内面を表現する
動物写真家 嶋田忠氏
北海道で野鳥を撮り続け、数々の賞を受賞されている嶋田忠先生。その作品には野鳥たちの自然を生きる気迫が見事に写し出され、見た者の心を打ちます。様々なジャンルで活躍する写真家の先生たちを紹介する新企画「十人十色」。最初に紹介するのは「僕の写真は動物の生態写真ではありません。生き物の姿を借りた私自身の内面の表現なのです」と言う異色の動物写真家、嶋田先生です。
 嶋田忠先生は1949年、埼玉の田園地帯に生まれました。物心がついた頃から鳥が好きだったそうで、高校生の頃に、最初に撮った写真も庭に来るモズでした。野鳥と写真三昧の学生生活を送り、20歳の頃に信州でカワセミと出会い、「魂を抜かれてしまった」と言います。以来、野鳥の動物写真家を目指して邁進します。
シマフクロウ ■カメラ:キヤノンT90 レンズ:FD28-85mmF4 絞り:f11 シャッタースピード:1/60秒 フィルム:フジクロームRDP ストロボ使用 撮影地:北海道
相手を知った上でどのように攻め、
どう裏をかくか。それが動物写真です。
 大学を卒業してからはアルバイトをしながらカメラ機材や、野鳥を撮影するためのアウトドア用品を揃えていきました。南アルプスの山小屋で麓から資材を運び上げるアルバイトをしていた頃、勤めていた小屋に動物学者の今泉吉晴先生が、動物雑誌『アニマ』の創刊準備の調査に訪れました。そこで今泉先生は嶋田先生がカワセミを追いかけていることを知ります。その話が『アニマ』の編集長に伝わって、編集部に誘われました。先生のプロの写真家としての人生は、ここからはじまります。
 写真の構図は20歳の頃に、宮本武蔵の枯れ枝にとまったモズの絵に感激してから意識されたそうです。嶋田先生の作品から、鳥たちが厳しい自然を生き抜いていく気迫が強く伝わってくるのは、宮本武蔵の影響なのかもしれません。

 最初に出した写真集『カワセミ清流に翔ぶ』では、カワセミの水中に飛び込んで魚を捕らえる捕食のシーンを撮るために、先生は川の中に畳一畳くらいの小さな池を作り、小魚を入れて何日もカワセミを待ちました。

「相手を知った上でどのように攻め、どう裏をかくか。生き物のことも写真のことも、教えてくれたのはカワセミでした」
 カワセミと初めて出会ってから10年目のことでした。先生はこの写真集で太陽賞と日本写真協会新人賞を受賞します。
ノゴマ ■カメラ:キヤノンEOS1  レンズ:EF500mmF4.5L 絞り:f4.5 シャッタースピード:1/500秒 フィルム:コダクロームPKR 撮影地:北海道

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