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■撮りたいのに売ってない。だから自分で作ったんです。
●芥川先生は航空写真を撮るかたわら、大判カメラの設計でも高名でいらっしゃいます。カメラの設計をされる写真家の先生というのは少ないように思いますが、先生はすでに高校生の頃からカメラを改造し、本格的に写真を撮っておられたとうかがいました。先生は最初、なぜカメラを改造しようと考えたのですか?

 当時はカメラの改造というより、レンズを自作していたんです。
今は銀塩のカメラといえば、ほとんどが一眼レフですが、その当時は一眼レフがやっと市販されるようになった時代で、主流はまだレンジファインダーだったんですよ。レンジファインダーの場合は一眼レフとは違い、レンズを変えると、ファインダーから見える画像と実際に写した写真の画像が一致しなくなります。ですから交換レンズも市販されているものは少なかったんです。

 またレンジファインダーの場合、レンズから被写体の距離を示す距離計の範囲も135mmが限界でしたから、交換レンズも135mmまでで、たとえば200mmのレンズが欲しいと思っても、市販されていなかった。そうした写真は高価な一眼レフでなければ撮れなかったのです。それでも、私は200mmや500mmのレンズで撮りたかった。そこで昔の暗箱カメラのレンズを利用して自作しました。

 その自作したレンズを使って撮った写真で、カメラ雑誌の月例コンテストに応募していました。他の応募者は通常のレンズで撮っていますから、自作レンズを使用している私の写真は目立ったのでしょうね。随分、賞金で荒稼ぎさせていただきました (笑)。当時のサラリーマンの給料よりもずっとたくさん稼いでいましたよ。そのうちに、あるカメラ雑誌に「もうやめてくれ」と言われたので、やめましたけど(笑)。
冬の北海道オホーツク海は、何と言っても流氷を忘れることができない。2月頃に北風に誘われて網走地方に接岸し、別世界を展開して観光の目玉となる。
■カメラ:エアロアクタス45 レンズ:EBCフジノン250mm F5.6 絞り:f8 シャッタースピード:1/125 フィルム:RVP(1絞増感現像) 撮影地:北海道網走沖
一番早く秋の知らせを受け取る地、北海道大雪山系は初冠雪とともに紅葉の競演がはじまる。他の地域では見ることのできない鮮やかさだ。
■カメラ:エアロアクタス45 レンズ:EBCフジノン150mmF4.5 絞り:f8 シャッタースピード:1/250 フィルム:RVP(1絞増感現像) 撮影地:北海道大雪山黒岳
※レンジファインダーカメラ(距離計連動式カメラ):カメラ前面の二つの窓から見える画像をファインダーの内部で結合させピントを合わせる方式のカメラ。 これに対し、現在の主流である一眼レフカメラは、レンズを通してファインダーから見た画像が、そのままフィルムに焼き付けられるカメラ。レンズが1つでありこのレンズをファインダーとフィルムが共用するため、見えたとおりの画像がフィルムに記録されます。
■はじめて飛行機に乗ったときに見た地上の風景が
全然違うものに見えたんです。
●その当時はまだ航空写真ではなかったわけですが、先生はいつ頃から航空写真に興味を持たれて、専門に撮るようになったのですか?

 航空写真を撮るようになった直接のきっかけは仕事ですが、興味を持つようになったのは、もっと前、最初に飛行機に乗ったときですね。
 私はもともと子供の頃から機械が好きでしたから、機関車や飛行機も大好きだったんです。しかし当時は、飛行機に乗れるチャンスなんてめったになかった。はじめて乗ったのは19歳の頃だったと思います。

 当時、私は台風が起こす荒波や強風を撮りたくて、台風の通り道である与論島に撮影に出かけたんです。今なら鹿児島から半日もあれば行くことが出来るのですが、当時はまだ与論島が日本に返還されて間もない頃だったので、船でも直行便はなく、貨物船や貨客船を乗り継いで島づたいに、途中の島々に立ち寄りながら、ようやく与論島にたどりつきました。結局鹿児島を出発してから戻ってくるまでに1ヶ月もかかってしまったんです。
鳴門の渦潮は、春と秋の大潮の時期に日本の最高潮流の10ノットに達し、渦の直径は30mにもなる。観潮船も舷を傾けることが多々ある。
■カメラ:エアロアクタス45 レンズ:EBCフジノン150mmF4.5 絞り:f8 シャッタースピード:1/250 フィルム:RVP(1絞増感現像) 撮影地:徳島県鳴門市
 その帰途に初めて飛行機に乗りました。当時は現在のJASの前身である東亜航空が、鹿児島と奄美大島の間を飛んでいたのですが、飛行機といっても8人乗りの小さなものでしたので、今の大型の飛行機とは違い低空を飛ぶんです。ですから下の景色がすごくリアルに見える。島々の様子とか海を行く船とかがはっきり見えるんです。それが地上に立って眺めていた世界とは全然違って見えました。その印象がすごく強かったですね。今から思うと、そのときの体験が航空写真に興味を持った最初だったように思います。

それから2年ほど後のことなのですが、当時、私は電力会社の依頼でコマーシャル写真を撮っていました。電力会社というのはダムのような広大な被写体が多い。そうした被写体を撮るために、空撮を初めて行ったのです。その後、仕事で何度も飛んでいるうちに、仕事の合間に自分の撮りたい航空写真も撮るようになりました。やがて私が航空写真を撮ることを知った企業、たとえば船舶会社などから空撮の仕事の依頼が入ってきたんです。その後も仕事で航空写真を撮る機会がどんどん増えていきました。

 それまでは通常のコマーシャル写真と航空写真とを平行して撮っていたのですが、結局、ほとんどの仕事が空撮になってしまいましたね。専門に撮るようになったのは30年ほど前からです。
温州みかんの産地、愛媛の佐多岬半島の付け根、伊方町のみかんハウス。現在はビニールハウスも登場している。年間を通して金属的な輝きを見せ、気を引かれる地点だ。
■カメラ:エアロアクタス45 レンズ:EBCフジノン250mmF5.6 絞り:f8 シャッタースピード:1/500 フィルム:RVP(1絞増感現像) 撮影地:愛媛県伊方町
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