特集
冬は被写体を前にしたときの
緊張感が高まる季節。

■雪が降ったらどのように景色が変わるのか、
 れをイメージできれば冬の撮影は難しくない。
●田中先生は四季を通じて多くの作品を創作されていますが、先生ご自身は撮影の季節として、夏と冬では、どちらがお好きですか?

 私の場合、どちらかというと冬のほうが撮影に出かける機会が多いですね。

●冬場の撮影では、主にどこにお出かけになるんですか?

 近場です(笑)。私の作品はイメージ的なものが多いので、北海道で撮影しても、近場で撮影しても、作品の出来がそう大きく変化することはないんです。ですから、どこでも撮れます。私の住んでいる愛知県でも、最も冷える場所ではマイナス20度にもなりますから、十分冬のイメージを撮影することができるんです。
 日本の場合、冬の撮影というとすぐに北海道が思い浮かびますが、それに近い冬の景色であれば、たとえば中部地方にも撮れる場所があるんです。もちろん北海道独特の「しばれる」といった空気感を表現するのは難しいですが、必ずしも遠出しなければ冬のよい写真を撮ることができない、ということはないんです。

●アマチュアの場合は、近場で冬らしい写真を撮るのは難しいのでは?

 その場所に雪が降ったらどのように景色が変わるのか、それをイメージできれば、近場での冬の撮影も狙いやすくなると思いますよ。
 また、ビギナーの方が冬の写真を撮る場合、若い方であればスキー場はどうでしょうか。カメラや機材を持ってゴンドラで頂上まで行くといいんですよ。降りるときもゴンドラで降りてくることができますから。
降り始めた初雪を見て近くの山野に出かけた。積雪は浅いが、大粒のぼたん雪が激しい。何気ないススキの群生も魅力を醸し出していた。
■カメラ:EOS-1N レンズ:EF28〜70mm F2.8L 絞り:f10 AE -2/3補正 フィルム:RVP 三脚使用 撮影地:愛知県小原村
立春を迎える頃には春の日差しを感じる。残雪の日陰と、陽光浴びる日向を対比させることで、温もりをイメージさせる。望遠による前ボケを生かすことで画面変化をつけた。
■カメラ:EOS-1 レンズ:EF300mm F2.8L 絞り:f4 AE
-1/3補正 フィルム:RVP 三脚使用 撮影地:長野県売木村
■冬は夏よりも季節の特徴がはっきりしている。
●冬にも初冬、冬の盛り、晩冬とありますが、それぞれの趣は、かなり異なるのでしょうか?

 ええ、違います。撮影場所としては、初冬の新雪の時期であれば、たとえば渓流などがいいですね。石に綿帽子がかぶるような状態が撮れます。厳冬になると、川の流れが雪で埋もれてしまうので、初冬の方がいいシーンが撮れるんです。
 2月の厳冬の時期はふぶいている様子など、冬の厳しい寒さが伝わるシーンを狙います。3月に入ると陽光も眩しくなってきますので、春の訪れをイメージできる作品が狙えますね。

●田中先生にとって、冬場の撮影の魅力は何ですか?

 冬の場合は、雪・氷を代表として閑散とした木立など、その季節の雰囲気を、おのずと醸し出してくれる被写体が多く、季節のイメージを作品にしやすいんです。一方、夏の場合は、雲や海と言った被写体が中心となりますが、これらは一年中見られるもので、夏特有、というものではありませんからね。こちらで変化を持たせないと、なかなかその季節のイメージが伝わりにくいんです。

 また、気温が劇的に下がると、その時にしか撮れない作品ができやすいんです。春や秋ですと、桜であれ紅葉であれ、ある程度、開花時期を読んで狙った撮影をすることもできますが、冬は、たとえば冬山など特にそうですが、天候が変わりやすく、それは難しい。その一方で、思いがけないシャッターチャンスに出会えることも、また多いんです。そういう意味では、被写体を前にしたときの緊張感が高まる季節ですね。

雪深い場所の渓流は流れも雪に埋もれてしまうため、撮影ポイントの選択が必要。また接近しすぎると流れに落ちることもあり、危険が伴うため、望遠レンズを活用する方が安心だ。
■カメラ:EOS-1N レンズ:EF70〜200mm F2.8L 絞り:f11 AE+1/3補正 フィルム:RVP 三脚使用 撮影地:岐阜県白鳥町
早朝、林道沿いで見つけた雪をかぶる小枝。広角でぐっと近づいてデフォルメ表現する。
特長の少ない素材も個性が出てくる。レンズワークを工夫することでチャンスが広がる。
■カメラ:EOS-1 レンズ:EF35mm F2 絞り:f8 AE フィルム:RVP 手持ち 撮影地:愛知県豊田市
初雪から2日後の早朝風景である。前夜の冷え込みで雪解けした枝々に水分が着氷して、一帯の樹木は樹氷となった。雪と氷のミックスした景観は凍てつく気配が漂う。
■カメラ:EOS-1N レンズ:EF300mm F4L 絞り:f11 AE -2/3補正 フィルム:RVP 三脚使用 撮影地:岐阜県丹生川村
 
 
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