春の花
個性を磨くこと、
それを普段から大事にしてほしい

■季節感のあふれる写真というのは、
日本人特有のものだと思います。
●最初に、世界の各地を撮影してこられた三好先生に、日本の自然の特徴をおうかがいしたいのですが。

昨年、チベットの奥地、仏教の聖地カイラス山に行きました。標高が4000m以上の場所をジープで移動したのですが、山の上を走っているようなもので、雲が手に取れるように近く、空は青さが強くて暗く思えるほどでした。そこの景色は日本では決して見られないものです。

 その後にニュージーランドへも行ってきました。ニュージーランドは緯度が日本に近いので、ブナの原生林があったり、植生は似ています。似てはいるのですが、やはり違う。微妙に違います。日本の自然には、確かに他の地域にはない特徴があると思います。

 世界の各地を見てきて思うのは、日本の自然の持っている特徴というのは、やはり四季がはっきりしていることだと思います。これは日本独特のものです。特に春の華やかさは独特です。他の地域では花は咲いても日本ほどの華やかさは感じられません。

●そうした自然の中に育った日本人が、他の国の人と異なった感性があるとすると、どのような点だとお考えですか。

 明確な四季に囲まれていることもあって、日本人は季節に対して敏感で、観察力があると思います。また、それを表現してみたいという気持ちも強い。たとえばニュージーランドの人たちの写真集を見ても、日本人のものとは少し違う。自然の厳しさや造形をとらえているものが多く、日本のように季節感あふれる楽しい写真集というものはあまり見られません。

〈福島三春町福聚寺紅しだれ〉見事な紅色をしている珍しい桜。まわりの竹林とのコントラストでよけいに紅く見える。曇りの日、風を待って、そっとスローシャッターを切った。
■ カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5 レンズ:600mm 絞り:f45.5 シャッタースピード:8秒 フィルム:ベルビア PLフィルター使用
〈盛岡市龍谷寺盛岡しだれ〉天然記念物になっている見事な大輪の花。逆光で絞りを開けて、レンズのボケ味を楽しんだ。
■ カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5 レンズ:400mm 絞り:f16 シャッタースピード:1/30秒 フィルム:プロビア
〈秋田県角館町〉桜のトンネル。早朝、人のまだいない時間に出かけた。
■ カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5 レンズ:135mm 絞り:f32.5 シャッタースピード:1/4秒 フィルム:プロビア
〈岡山県落合町醍醐桜〉霧に見えかくれする巨木。見事な枝ぶり。露出はうんと明るめにした。
■ カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5 レンズ:90mm  絞り:f22 シャッタースピード:2秒 フィルム:プロビア
〈新潟県極楽寺〉天然記念物の優雅な桜。バックには黒い布をたらして花だけを撮った。
■ カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5  レンズ:210mm  絞り:f8シャッタースピード:1秒 フィルム:プロビア
■自分自身をたどった旅が、
「ぼくのふるさと 阿波吉野川」という写真集です。
●先生は昨年「ぼくのふるさと 阿波吉野川」という写真集を出されていますが、ここにも日本の自然があふれていますね。

 これは私が小さいときの思い出をたどりながら、ストーリーを作っていったものです。小さいときに遊んだ吉野川をテーマにしたいと思いまして、それで吉野川を上流まで上っていったのですが、そこに流れている水は自分が子供の頃に飲んでいた水なのです。
「ぼくのふるさと 阿波吉野川」三好和義(小学館)4,300円(税別
ですから吉野川をさかのぼることは、自分自身の心をたどっていくことだと思いました。自分はどこへ行くのかを知りたい、という思いもあるのですが、その前に、自分はどこから来たのか、それが知りたかったんです。
 上流まで行ってみると、そこには日本では見ることができないものと思っていた、南の島の海の水の色、その色の水が流れていたのです。それも、ただきれいなだけではなく、神秘的なので感動しました。
 写真というものはこのように、自分の中で旅をすることができます。写真は並べて見ることができますので、そこから自分の道筋を確認することができる。シャッターを切りながら自分自身をたどってゆくことができるのです。風景をいくら目に焼き付けても、それを並べて見ることはできません。ですから、たどるということは難しいと思うのですが、写真はそれができるのです。
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