写真おもしろヒストリー

レンズ物語 前編
ガラスから生み出された大発明

初期のカメラ・オブスキュラでは、中に入って像を観察できるものも考えられた(1646年)。
外部ミラーとレンズの組合せによって像を反転させるタイプのカメラ・オブスキュラ。
 今日の一眼レフカメラでは考えづらいことですが、昔はファインダーの窓とレンズが別々になっていましたので、カメラのレンズにキャップを付けたまま撮影をしてしまった、という笑い話がありました。もちろん、写真は真っ暗で何も写っていません。カメラにとって、レンズはフィルムや印画紙といった感光材料に画像を焼き付ける、何よりも大事なものなのです。

 レンズは天体観測をする望遠鏡から人体の内部を観察する内視鏡、あるいは顕微鏡など、様々な分野で重要な役割を演じています。このレンズの持つ、遠くのものや小さなものを大きく見せる効果の発見は氷の観察からだったといわれていますので、1万年以上も前から知られていたことになります。しかし、実用となるとガラスの登場を待たなければなりません。

 ガラスの存在は紀元前数百年前には、すでに知られていました。ローマの歴史家プリニウス(西暦23〜79年)による著書「博物誌」の記述によれば、地中海貿易で名高いフェニキア人が、ある時、河岸の白砂の上で炊事をするために、台となる石を探していたのですが、手頃な石塊が見つかりません。そこで商品として船に積んであった天然ソーダの塊を台にして使用したところ、熱に溶けて流れだし、白砂にしみて冷えた後に、透明の物質ができていました。これがガラスのルーツだ、という少々できすぎたエピソードを伝えています。

ダゲレオタイプを撮影し処理をするためのおびただしい道具だて――版画
1525年、ラファエロによって描かれた「法王レオ10世の肖像」…手中に眼鏡が。

 現在でもガラスは石英と炭酸ナトリウムを主成分として、ルツボで溶かして作られており、エジプトでは炭酸ナトリウムの天然ソーダが塩湖のほとりで地表に剥き出しになっていますから、ガラスの製法が偶然に発見された可能性はかなり高いと思われます。

 ギリシアでは紀元前4世紀頃に、ユークリッド、デモクリトス、アリストテレスといったギリシアの賢人たちの多くが、光とレンズに深い興味を示していたことをうかがわせる記述を残しています。

 その後レンズの光学的な原理や法則が徐々に明らかにされてゆき、1300年頃には凸レンズが老眼鏡として実用化され、凹レンズが近視に役立つことが発見されました。こうしたレンズの特性が応用され、最初に開発された複合的な光学機械は顕微鏡です。

 1500年代から1600年代にかけてオランダのスネルやデカルトらによって光の屈折の法則などが発見され、レンズの効果が科学的に解明されるようになります。1558年にはガリレオが現在の地上用望遠鏡を発明しました。この時代に、後のカメラのレンズに応用される基礎が、急速に築かれていきました。そしていよいよカメラが登場するわけですが、それは次号で説明いたしましょう。