5年、10年の歳月をかけて、
満足のいく一枚をモノにする。

同じ撮影地に通い続けることで、ステップアップが可能となる。


●三好先生は「楽園」というテーマで長年にわたって撮影活動を続けておられますが、その中でご自身の「楽園」に対するお考えやとらえ方というのは、ずっと変わらないものなのでしょうか?

 私も最初の頃は、見た目の美しさとかビジュアル的なものに「楽園」を見いだしていたのですが、最近はもっと精神的な部分で惹きつけられ、自分の気持ちが高まり癒されるような「心の楽園」を求めるように変わってきたのを感じています。例えば桜を撮りに出かけるという行為も精神的な充足を得るために行くわけで、いわばこれは私にとって「楽園を探しに行く旅」なんです。そして、こうした被写体と自分の気持ちとをつないでくれるものが写真なんですよ。だから桜を撮りに行くなら、まず現地に問い合わせて開花状況を確認するとか、由緒ある名木だったら資料を入手してその由来を調べるといった下準備をしてから撮影地へ向かうことを、私は大切にしているんです。こうすることによって自分の気持ちが盛り上がるし、撮影のためのイメージも膨らんでくるんですよ。
賢誓寺の桜。バックの霧がみるみる晴れてゆく。あわててシャッターを押した。
■カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5 レンズ:フジノンT400mm 絞り:f8 シャッタースピード:1/30秒 フィルム:プロビア
撮影地:岐阜県萩原町 5月

●桜というのは撮影時期がごく限られているだけに、先生が手がけられるモチーフの中でも難しい題材なのではないでしょうか。

 確かにそうですね。開花時期が短い上に色合いが微妙で、本当にいい色に咲いている時ってなかなかないんです。また、雨や風など周りの環境や天候にも左右されるし、そういう意味では本当にいい撮影条件に恵まれるのは、何年に一度といった感じです。

 だからこうしたシャッターチャンスの少ないモチーフの場合は、必ずしも一度の撮影でベストな作品を撮ろうとせず、5年、10年といった期間をかけて、満足のいく一枚をモノにするという位の心構えも必要だと思います。私も今まで弘前や高山・角館・三春といった様々な撮影地で桜を撮ってきましたが、100%満足のいく撮影ができたと感じたことはまだ一度もありません。これらの桜にはぜひもう一度チャレンジしたいと思っています。

 また技術的な問題でうまく撮れなかったのなら、その失敗をしっかりと覚えておけば次回の撮影に活かせるでしょう。最近はデータを記録できるカメラがありますから、絞り値とか補正のプラスマイナスとか、昔は自分の頭で覚えておかなければならなかったことが撮影後でも確認できますよね。だから「この時はこういう撮り方でうまくいかなかったから、次の時はもう一段プラスしてみよう」といったことができる。やはり一度失敗をして次のステップへ行くというのも、いい作品を撮るための大切なプロセスではないでしょうか。だから私の「桜を撮る」というテーマはまだまだこれからだと思うし、毎年春になると「今年こそは最高の一枚が撮れるのではないか」という期待感が、私を再び撮影地へと駆り立てるんですよ。

月見堂の桜。苔むした幹の質感を撮るのに、陽がかげるのを待った。
■カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5 レンズ:CMフジノン300mm 絞り:f45 シャッタースピード:1秒 フィルム:プロビア
撮影地:長野県阿智町 5月

●いい写真を撮ろうと思ったら、「同じ場所に何回も通う」ということも大切なんですね。

 初めてその地を訪れた時というのは、得てして珍しさだけでシャッターを押してしまいがちなんですが、それでは単なる観光客と同じだし、被写体に対して浅い見方しかしていないと思うんです。だけど何回もそこに通うことによって、自分の被写体を見る目も肥えてくるし、現地の人と知り合って話を聞いたりすれば、一層深いところまで見えてくる。

 タヒチなどもこれまで10回以上行っていますが、そのたびに違った写真が撮れるんです。出ている雲の形や光の感じが変化するといったこともありますが、撮った写真を日本に帰って現像してみると、現場ではわからなかったいろいろなことに気づくんです。それで「次に行った時はこんな撮り方をしてみよう」という新たなイメージへとつながってゆく。それが非常に面白いし、自分の作品をさらにステップアップさせてくれるんですよ。

素桜神社の神代桜。人を配することで大きさが出た。樹齢は1000年を越える。
■カメラ:リンホフマスターテヒニカ4×5 レンズ:フジノン90mm 絞り:f32 シャッタースピード:1/4秒 フィルム:プロビア
撮影地:長野県長野市 5月


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